きっかけ


103号室 ...01

「先輩、昔って痩せてた?」
「え? 中学生くらいまでは普通だったかなぁ」
「……トロフィーって持ってる?」
「ど、どうしたの? 急に……」



 俺のやりたいことも無事に親へと伝えて、家のゴタゴタも落ち着いたってのに、また家へと呼び出された。
 仕送りもらってる間は確かに週1で帰んなくちゃいけないけど、今回呼び出されたのは姉貴命令。
 何の用かと思えば、掃除を手伝えってどういうことだよ。
「それくらい、他にさせる奴いくらでもいるだろ」
 それでも、後が怖いから素直に来てる俺……情けねぇ。
 テーブルに肘をつき、出来るだけ用事を押し付けられないように姉貴たちの方は見ないようにしていると、目の前にどっかりと箱を置かれた。
「剣にやってもらうのは写真整理だよ。他のヤツにさせたらウルサイでしょ。それ一応全部入れといてくれる? あとで確認するから」
 そう言って、アルバムと写真の入った箱を手渡すと、パタパタと動き回る。
 どうやら、掃除をするのは本当らしい。
 観念して箱を開けると、何年前だというくらいの昔の写真。
 小さい姉たちに混じり、ちらほらと自分も写ってるそれの1枚を手に、いつのことだか思い出そうとする。
「……わかんねぇ」
 さっさと終わらせて帰るかと、作業を開始してしばらくたつと、目を引く写真が1枚出てきた。
 幼い頃の自分が、知らない女の子と2人で写っている写真だ。
 手にとってマジマジと見て見るが、クラスメイトだった記憶もない。
 何気なくその写真を裏返すと、メモが書いてあった。
『剣ちゃんとヒトミちゃん。美少女コンテストにて』
「俺と……ヒトミちゃん?」
 その名前には聞き覚えがある。
 むしろ、最愛である先輩の名前だ。
 もう1度写真を見ると、確かに髪や瞳の色……雰囲気は似ているかもしれない。
 他にも写真があれば、何か思い出すかもしれないと作業をし始める。
 気になる写真は手元に置いたまま……。



 そう、あれは数年前。
 組員の誰かが、
『美少女コンテストがあるんで、お嬢さんたち参加したらいかがですかい』
 なんて言うもんだから、乗り気になった姉貴に引っ張られて、応援に行かされたんだ。
 そこで確か、姉貴にジュースの買出しを頼まれて――
「あーっ! ねぇねぇ、そのジュースね、どこに売ってるの?」
 4本のジュースを抱えた俺に、声をかけてきた女の子。
 ここにいるってことは、参加者なんだろうなくらいにしか思わずに、自販機の場所を教えてあげようとした。
「どこって……自販機。そこの――」
 ――ガシッ!!
 腕を掴んでこちらをじっと見つめる女の子の瞳は、心なしか潤んでいた。
「……連れてってやろうか?」
「ホント!?」
 ぱぁっとわかりやすいくらいの笑顔になって、その子は手を離した。
 不意打ちの笑顔に不甲斐なく胸を高鳴らせてしまい、赤みが差しそうな顔を見られないように視線をそらして自販機まで歩いた。
 その間、何か他愛ない話をしていて――彼女は確かに言ったんだ。
「おいしいお菓子を食べさせてくれる人が好きだなぁ。この前もおにいちゃんがね……」



「それから……姉貴がお菓子つくりしてるの見てたんだっけ」
 目指すきっかけになったのは、お菓子作りを見たからで。
 それを見るきっかけは、もしかしたら……。
「ま、本当に先輩だったか聞いてみよう」
 そっと写真をポケットに忍ばせて、浮かべる微笑み。
 もし自分の思い違いじゃなかったら、なんてすごい偶然の重なりだろう。



 必然となるように折り重なって、また出会い、恋をした。
 お前が喜ぶなら、どんなお菓子も作るから。
 どうか、夢の終着駅まで……一緒に歩もう。



「………でも、姉貴に無理やり手伝わされたような気もする」

- end -

PSP版発売の勢いで書きました。PS2のときから剣ちゃんは好きです。
clap

浅野 悠希