一緒にいようよ


シェゾ×アルル ...03

 朝、太陽の光が差し込んできたことで目を覚ました。
 いつもならば、本を読みふけって日の出とともに眠るか、逆に日が昇る前に目を覚まして遺跡に出かけるかで、こんな健全とした寝起きはどれくらいぶりだろうか。
 ……隣さえ見なければ。
「ん……もう、起きるの?」
 眠い目を擦るそれは愛らしいが、それに見入っている場合ではない。いや、昨夜の出来事は覚えているので隣に寝ていることを動揺しているわけではないのだが……どうやら、無意識にアルルを抱き枕にしていたらしい。
「ね? あったかかったでしょ」
 この状況下でも怒ることはなく、寧ろ得意気に笑ってみせる彼女に脱力すると、照れ隠しも相まって布団を引き剥がした。
「うひゃあっ!」
「うるさい、さっさと朝メシの支度をしろ。それが条件だろ」
 むぅ、と頬を膨らまして恨みがましそうに見る視線を知らんふりをし、上着を羽織って先にベッドから降りる。
 毎日こんな調子が続くのかと思うと、気が気ではないが追い返せない。追い返したくなくなっているというのが本音だが、そう思ってしまえば負けのような気がして、魔導力を奪うチャンスの為に追い返さないだけだと強く思うようにする。
「わかったよう……じゃあ、おいしく作るから待っててね!」
 パタパタとそれほど広くない部屋を駆けてドアへ向かい、振り返って満面の笑顔だけ見せると静かに外へ出て行った。
 ただ、それだけのはず。よく笑うヤツだとわかっているはずなのに、何故だか欲目でみてしまう自分がいて、シェゾは頭を掻きながら床へと座り込んだ。
「くっそ、なんなんだよ。こんな気持ち……」
 捨ててしまったはずだったのに、という呟きが声にならなかったのは、今まさに捨てていなかったということを実感しているからだろうか。人ならざる者として永くを生き、感情なんてものは薄れていると思っていた。なのに、欲望以外の願望が根付いてしまっている。
 いや、本当はそれこそが欲の塊であって、決して綺麗なものではないだろう。ささやかに子供染じみた甘いものからどす黒い闇のような苦く重い思いまで多種多様なそれは、忘れていた感情の1つであるためにどうすれば良いのかなどわからなかった。長年闇の魔導師と名を馳せてきた彼も、ただ年頃の少年のように苦悩するしか手が無かったのだ。
「オレが……アイツを? まさか、そんな」
 何かの間違いだ、と深呼吸1つ。冷静になって考え直してみるが、魔導力以外に気になる部分がわからない。
 いつからか気になり始め、勝負に手を抜くようになっていた。勝ちさえしなければ……魔導力さえ奪わなければ、口実をつけて会えるのだからと。では、どうしてそんなにも会いたいと願っていたのだろうか。
 それは、やはり先ほどから頭を掠める1つの事柄がぴったりと当てはまる。
「アルルを好き、なのか」
 音になって自分の耳にまで届いた言葉に顔を赤くし、2度とその言葉を発さぬように口元を押さえる。認めたからといって楽になることは一切無く、それよりもこの先どう接していけばいいのかと無駄に落ち着かなくなる。
 だけども、昨日のアルルの発言では恋愛対象外どころか男としても対象外なのだが。
「シェーゾー? 朝ごはん出来たよ」
 遠慮がちにドアがノックされ、声が裏返ってないことを確認して返事をする。急に態度を変えられても困るだろうし、何より動揺は悟られたくない。
「あぁ、わかった。失敗なんかしてないだろうな」
「ひっどーい! ちゃんと美味しくできたのにぃ」
 むくれる彼女の頭を撫でようと頭上に手を伸ばしたところで我に返り、軽く小突いてやる。
 まったく、自覚してしまっただけでこんなにも行動に差が出るものだろうかと気づかれずに昨夜から何度目かの溜息をつく。
「バカか。自画自賛はいいんだよ、さっさと食うぞ」
 少しむっとしながらも、ちゃんと食べてくれるらしい一言に安心するが、彼は一緒に行こうとはせずスタスタと先に行ってしまう。そんなシェゾの上着の裾を掴み、歩幅の違う足を懸命に動かすと前方からは微かに笑い声が聞こえる。
「お前って、アイツに似てるんだな」
 カーバンクルに、と付け加えて笑う彼に一瞬ハテナが浮かんでしまったが、褒め言葉ではないらしい物言いに口を尖らせてブツブツと抗議し始める。
 言った方にしてみれば、小さくてちょこちょこ離れずに着いてくる様子が似ていると言いたかったのだが、そこはいつもの言葉足らずであろう。わざとそう言わなければ『可愛い』とまで言ってしまいそうで、そんな自分がおかしくて笑っていただけである。
「ボク、あんなに大食いじゃないよ! シェゾの分までご飯とらないってば」
「はいはい、そうだな」
 どうしても彼女との会話は論点がずれてしまうらしい。
 それでも、気持ちを自覚したことによって楽しいと思えるこの時間は、出来るだけ続いてほしいと願ってしまうことは罪だろうか。
 生きる場所が、違うというのに……

- end -

clap

浅野 悠希