.No Title Tormenta Eleccion

Tormenta Eleccion


sample ...01

 新学期、恭介くんのおかげで閏が丘のことも学校の勉強も不安が無くなった私は、同じクラスになった申谷さんと他愛ない話をしていた。
「っと、そろそろ時間かな」
「え? まだチャイム鳴ってないよ?」
 次の授業は移動教室じゃないはずだし、机の上には真新しい教科書も並んでいる。これから何が始まるのだろうかと見返せば、呆れたように溜め息を吐かれてしまった。
「何言ってんのよ、入学式の終わる時間! 新入生をチェックしに行くに決まってるでしょ」
 さっきまで、彼氏の愚痴を聞かされていた気がするんだけどな……とは言えない空気に愛想笑いを浮かべ、私たちは一緒に教室を出た。年上が好きだと言ったかと思えば、男も車も新車が一番なんて言ったりして、まだまだ申谷さんの好みはわからないかも。
 体育館から教室へ移動する新入生を見るために廊下を歩いていると、大きな足音が響き渡ってくる。
「コラッ! いい加減観念しやがれ寅谷ッ!!」
「へへーんだ、ボクを捕まえてから言うんだねっ!」
 近くの階段から聞こえる声に思わず振り返ると、前髪をまとめて元気な顔で笑う、いかにも悪戯っ子な男の子と目があった。
「……っ! ね、ねぇねぇ、ボクを匿ってよ!」
「えぇっ!?」
 すぐそこまで、白衣を靡かせて先生が追って来ているのに、どう匿えって言うんだろう。
 そんなことを考える時間すらくれないで、彼は私の手をとって走り出してしまった。
 ぐるぐると走り回って適当な空き教室へ潜り込むと、彼はドアに耳を当てて息を潜める。一体何だって、こんなことに巻き込まれてしまったんだろう。
「はー、びっくりした。犬塚先生があんなにしつこいだなんて思わなかったや」
「それより! どうして巻き込むのよ。下から来たってことは、新入生じゃないの?」
 私の問いかけに答えず、男の子はじっと私を見ている。私だって転校してきたばかりだし、先輩風を吹かすつもりはないけれど、あんなに必死になって先生も追いかけてたんだ、何かあったには違いない。
「やっぱり…………先輩だったんだぁ。そんな風に見えなかったのにー」
 無邪気に笑う顔が憎めなくて、失礼なことを言われたのに怒る気なんてまるで起こらない。それどころか、もっと話してみたいって思うから、なんとなく不思議だ。
「もう、答えになってないってば。えぇっと……」
「立夏! 寅谷立夏だよ。きみは?」
「五十嵐由奈、だけど……それで、立夏くんはどうして先生から逃げてたの?」
 その問いに返事をくれたのは、チャイムの音。私は思わず携帯を取り出して時間を確認した。
「あっちゃー、本鈴鳴っちゃったね。サボる?」
「サボりません! ほら、立夏くんも教室戻る!!」
 来たときとは逆に私が引っ張って廊下に立たせると、立夏くんはなぜだか嬉しそうに笑う。サボりの誘いを断ったのに、どうしたのかな。
「明日のオリエンテーション、全学年だよね? 由奈ちゃんのこと探しに行くから!」
(全学年参加なのに、本当に見つけられるのかな……)
 メール交換くらいしても良かったのに、立夏くんは一足先に廊下を駆け出してしまった。特別新入生をチェックするつもりなんてなかったけど、この出逢いは申谷さんに感謝かな。



 新入生も先輩も関係無く、仲良くオリエンテーションを過ごせたのは良かった。だけど、ただ一つ心配なのは、女の子に恨まれるんじゃないかと言うこと。
(……なんで、こんな格好良い人たちと遊園地に来てるんだろ)
 私を含め、総勢七名。転校生と言うことで、何かと気を遣ってくれている悠人先輩が、このメンバーで集まったのも何かの縁だと遊園地に行くことを企画してくれた。それ自体はとても嬉しいことなのに、玄関先に乗り付けた高級車、昨日の今日で貸し切りになっている遊園地、それから一緒にいるのは校内でも目立つと思われる皆さん。
「なあ会長。このメンツに文句はないんだけどさ、普通男女の数合わすんじゃない?」
「仕方ないだろう、他の女子は俺たちに声をかけてこなかったのだから」
 奏矢くんの疑問はもっともだ。もし、男女の数が同じなら、私もここまで申し訳なさでいっぱいにはならなかったかも。
 立食パーティで、なぜか格好良い人ばかりに囲まれたことをラッキーと思わなかったわけじゃない。ただ、遠巻きに私たちを見ていた女の子にしてみれば、非常につまらない光景だっただろう。
「カンガルーのキックよりも強い眼差しでは見られていたみたいですが……僕、何かしたのでしょうか」
 特別ちやほやされていたわけじゃないけど、六人もいれば誰かしら私のことを気にかけてくれて、食べ物をとるのも会話も困ることがなかった。抜け出して他のテーブルに行こうにも、気分が悪いのかと心配され、結局女の子の友達はあまり増やせないまま終わってしまったことだけが心残りだ。
「みんなが格好いいから見てたんだよ。こんなに揃ってたら、声だってかけづらいだろうし」
「それじゃあ、オレは由奈が恨まれないように守ってあげちゃおうっかな?」
 私の肩を抱き寄せて、タクミくんはからかうように笑ってる。冗談だと言うのはわかるけれど、男の子に密着された経験がそんなにない私は、すっぽりとタクミくんの腕の中に収まってることに緊張して反論出来なかった。助けを求めるようにオロオロと視線を彷徨わせば、見かねた悠人先輩が口を開きかける。
「あんたに守れるワケねーだろっ」
 タクミくんから引きはがすようにして私を助けてくれたのは、恭介くんが早かった。新学期が始まる前から何かと気にかけてくれているけど、こんな風に助けてくれると少し気になってきてしまう。
「あっれー、由奈ちゃんってば赤くなってる? タクミくんと恭介の、どっちにだろ」
「なってない! 赤くなってないからっ!」
 否定する私に、澪くんが額を合わせてくる。急に目の前にやってくるから、驚きすぎて声も出ない。
「……平熱、だと思います。ビタミンCを補給すれば、まだ間に合うかもしれません」
 何事もなかったかのように、鞄の中からビタミン剤のケースを取り出し、あれもこれもと手のひらに乗せてくれる。心配してくれての好意なんだろうけど、一体何粒飲めばいいのかな……。
「澪も! そんなの渡したって、今から乗り物まわるんだろ、乗る前に食わせるな!」
「一粒に対して、必要な水が約コップ一杯。……確かに今から3リットル飲むのは危険ですね」
 澪くんは納得したのか、小さな密封出来る袋にサプリを詰めてくれるけど、一回で飲むのは無理そうだ。
「ほう、乗るのか。まさか恭介から、そんな積極的なセリフが聞けるとは思わなかったな」
 意味深な笑みを浮かべる悠人先輩に、恭介くんが露骨に嫌そうな顔をする。パンフレットを広げていた奏矢くんが自信満々に差し出した今日のルートは、絶叫マシンのフルコースだ。
 休憩が多少挟まれるとは言え、乗り物自体は激しいものばかり。しかもご丁寧に、ジェットコースターが6周と貸し切りを利用してかトコトン乗りまくるつもりのようだ。
「……ね、このコースは構わないけど、なんで6回も乗るの?」
「そりゃあやっぱり、こういう乗り物は女の子と乗ってこそだろ? 誰かだけ美味しい思いをするなんて不公平じゃないか」
「美味しい思いってなんだよ! そんな都合で由奈を振り回すな!!」
 そう言えば、相馬くんがこの二人は仲が悪いって言ってたっけ。喧嘩するほどとは言うけど、そんなに険悪に見えないし、これはこれで仲が良いのかも……?
 そんな風に喧嘩を止めもせず傍観していると、おもむろに立夏くんが口を挟んだ。
「なんかさぁ、恭介って由奈ちゃんの……お母さんみたいだよね」
「そうだねぇ、オレから引き離したり猪狩クンに注意したり。彼氏ってよりもお母サンかもねぇ」
 同意したタクミくんの言葉を聞いて悠人先輩まで肩を揺らして笑い出し、奏矢くんに至ってはお腹を抱えて大爆笑。澪くんはそんな様子を写真に撮り始め、恭介くんはわなわなと震え始めた。
「で、でも恭介くん。彼氏みたいって冷やかされるより良かったんじゃない? 恭介くんってば面倒見いいから」
 フォローのつもりでそう言ったのに、ピタリとみんなの動きが止まった。やっぱり、お母さんは嫌だったのかな。こういう場合、お父さんだよって言うべきだったのかも。
「――どっちも変わんねぇよっ! バカなこと言ってないで、さっさと行くぞ!」
「あっははー、恭介ってばわかりやすいんだから。なのに、由奈ちゃんの切り返し!」
 みんなが大爆笑する中、恭介くんが怒ってしまった理由がわからず、私は謝ろうと追いかける。せっかくみんなで遊びに来たのに、一人だけ輪からはずれてしまうなんて、やっぱりよくないよね。
「待ってよ恭介くん!」
 呼びかければ、ある程度進んだところで足を止めてくれて、本気で機嫌を損ねたわけじゃないことを知る。謝れば許してくれるだろうけれど、何を怒っているのかわからなくて私はどう切り出そうかと呼び止めた後で考え込んでしまった。
「……おまえは嫌なのかよ。俺が彼氏だって冷やかされるの」
「嫌じゃないけど、恭介くんに迷惑がかかるでしょ?」
 勉強が出来て、スポーツも得意。おまけに家事まで出来る男の子なんて、みんなの憧れじゃないのかな。申谷さんも、同じクラスになれてラッキーだって言ってたし、春休みを一緒に過ごして漠然とモテるんだろうなぁなんて思ったし。
 そんな恭介くんと噂になったりしたら、特に好きな人がいない今は困ることもないから、嫌だと思う理由もない。
「俺も嫌じゃない。……そんだけだ」
 追いついてきたみんなを一瞥すると、恭介くんはゆっくりと園内を歩き始めた。奏矢くんに小突かれつつ話している様子は、さっきまでと何も変わらない。
(私が嫌だと思ったから、不機嫌だったの?)
 まさか、と思うのにそうだとしたら私は嬉しいのかな。嫌じゃないというのは、必ずしも嬉しいとイコールじゃない。
 この日から、私は恭介くんを少し意識してみるようになるのだった。  それから、仲良くなった私たちは校内や街中で会えば気軽に声をかけるし、何気ないメールのやり取りもするようになった。その中には先生たちも含まれていて、身体測定の前日なんて、犬塚先生から特別にスリーサイズも測ってやろうかなんてメールが届いたり。
 私はスリーサイズ云々よりもすっかり忘れていた身体測定に大慌てで、その日一緒にケーキを食べた立夏くんに冗談半分で文句を言ったりもして、学年問わず仲の良い友達が増えた。
 慌ただしく過ぎる春は、学校行事だけでもたくさんあるのに、学校の外でも大忙し。
 放課後がくれば、私はその日のプリントをまとめて駅前の高級マンションへ向かう。気が向いたときには、お昼近くに学食へ顔を出しに来るみたいだけれど、タクミくんは休みが多い上に登校してきても授業をサボることが多くて、二度目の留年が心配になった私は自主的にこうしてマンションを訪れていた。
「なーんかさ、楽しそうな顔してるね」
「私は学校楽しいよ。どうしてタクミくんは来ないの?」
 危ない人たちと付き合っているらしいとか、夜いかがわしい仕事をしてるから昼間は寝てるんだとか、よくサボるタクミくんの噂は好き放題に広まっている。本人は何も気にしていないどころか、楽しんでいるところがあるけど、起きているなら来ればいいのに。
「オレにはつまんないの。だから、別に由奈も律儀に課題届けにこなくていいよ?」
「またそんなこと言って……これも、私がしたいからやってるの」
 学校から配られるプリントを届けるときは、ついでにタクミくんの家で課題をしていくことが当たり前になってきた。タクミくんの私服を見るのは、もしかしたら制服より多いかもしれない。
「ふぅん……由奈は、そうまでしてオレに会いたいんだ?」
 口の端を上げて笑うタクミくんは、冗談で言っていることがわかる。それでも、グッと体を近づけられたら思わず顔が熱くなる。
「何言って……! もう、こんなことする暇があるなら課題しようよ」
「オレにとっては、かなり重要なコトなんですけどー?」
「私は課題をするのが重要……きゃぁああっ!?」
 ぺろりと耳を舐めてご満悦なタクミくんは、楽しそうに笑ってる。やられた方にしてみれば、そんな笑っていられる状況じゃないのに!
「初々しいねぇ。それって計算……って感じじゃないのがイイな」
「な、なにがっ?」
「面白いコトがあるなら、たまには学校行くのもいいかもなーってこと」
 つまりそれは、こういうことを学校でも平然とされると言うわけで。ただでさえ同じクラスなのに、そんな約束をしてしまえば、私は学校にいる間は気が抜けない状態になってしまう。
「私は面白くないっよ! それに、学校じゃ立夏くんの悪戯だってあるのに……」
「へぇ、彼もこんな悪戯するんだ?」
 立夏くんの悪戯は、タクミくんと違って廊下を水浸しにしたりだとか、教室の鍵を並べ替えていたりとか、健全な悪戯が多い。
 いや、悪戯に健全も何もなく、どっちも困ることには変わりないけれど、タクミくんのこれは明らかに身の危険を感じる物で、丁重に辞退したくてたまらない。
(ここで、しないと言えば代わりにって言いそうだし、するって言えばオレもって言いそうだし……でも、タクミくんが学校に来るようになるなら――)
 ぐるぐると考えて見ても、良い答えなんて浮かばない。私が唸っているのをみて、タクミくんはまた意地悪く笑う。
「私はただ、みんなで学校を楽しみたいだけだよ」  言い返せなくて、拗ねたようにそう言えば、意外そうな顔で私を見る。新学期が始まったばかりだというのに、クラスメイトが欠けていることが普通だなんて思いたくない。これから体育祭とか沢山楽しい行事が待っているはずなのに。
「……別に、オレがいなくても楽しめるだろ」
「少なくとも、私はタクミくんもいなきゃつまらないよ。みんなが言うほど恐い人じゃないし、初めて会ったときだって今だって、優しいところがあるの知ってるもん」

 ――タクミおにいちゃんはこわくないよ、やさしいってしってるもん。

「……タクミくん?」
 私を覗き込んでいた瞳は驚きで見開かれていて、固まっているタクミくんに思わず声をかける。そんなに変なことは言ったつもりはないけれど、一体どうしたんだろう。
 なんでもない、と呟いて飲み物を取りにキッチンへ向かったタクミくんは、戻ってくる頃にはいつも通りで、やっぱり私の気のせいだったのかもしれない。


 そして翌日、本当にタクミくんは学校へやってきた。しかも、朝から。
 たまにはこんな日もあるだろうとクラスメイトはそこまで驚きはしなかったけど、早退もせず真面目に授業を受ける日が一週間も続けば、それは不思議な光景となってくる。
 そして、もう一つ。タクミくんが学校に来るようになって変わったところ。
「由―奈っ! この課題の提出日、今週末までだっけ?」
「きゃあっ! いきなり抱きつかないでよっ。もう……その課題は――」
 授業の合間には課題や進み具合の確認に、私の席にやってくるタクミくん。そして昼休みには昼休みで――。
「ねぇねぇ、今日学食? エビフライ定食頼む気ない?」
「頼んでもいいけど、私の分まで取り上げないでよ?」
「そんなコトするわけないっしょ。由奈に食べさせてもらうだけ。嫌なら由奈を食べちゃおっかなぁ?」
「ひゃっ……! もう、だから耳は舐めないでってば!!」
 そして放課後に至るまで、私はタクミくんに悪戯をされる。ときには立夏くんまで便乗して、私は学校に来るだけで疲れてしまいそうだった。
(だけど、学校に来てくれるのは嬉しいんだよね)
 過剰なスキンシップに怒りたくなることも多いけど、私が見かける範囲だとタクミくんは人を選んでいるようにも見える。もしそれが勘違いじゃないのなら、私はタクミくんにとって仲のいい人の部類に入るわけで。だとすれば、怒ることなんてできないよ。
「一人で何笑ってんのー? 由奈ってばやーらしぃ」
 意地の悪い笑みを浮かべたタクミくんが、私の机に座って見下ろしている。そんなに近くまで来ていることに気付かないなんて、私はどれだけ考え込んでいたんだろう。
「おいタクミ! あんま絡むんじゃねぇよ」
「いーじゃん別に減るもんじゃなし。それとも、御子柴クンに都合が悪いのかな?」
「別に俺は……とにかく、あんましソイツ、困らせるなよ」
 少し心配そうな顔をしながら、恭介くんは自分の席に戻った。今までも何度か私が悲鳴を上げる度にタクミくんを引き離してくれたり、結構気にしてくれているのがわかる。
 その光景を見て『修羅場かなぁ』なんて他人事のようなことを言う人もいたけれど、私にとって二人とも友達だし、そんなドラマみたいなことが現実にあるわけないじゃない。
 格好良くて頭が良くて、恐そうに見えて優しい人とミステリアスな雰囲気もある少し子供っぽい人。魅力的な二人と仲が良い私は、それだけで十分にラッキーだと思う。
「皆さん、ホームルームを始めますよ。それから五十嵐さん、帰りに職員室へ寄るように」
「あ、はい」
 返事を返したものの、呼び出される理由がわからない。まだテスト前だから成績に関してじゃないだろうし、転校に必要な書類だってさすがに全部提出したはず。
 あと考えられるのは、立夏くんやタクミくんからの攻撃に騒ぎすぎていると言うこと。
(……他の先生から苦情がありそうだし、それかも)
 私は小さく溜め息を吐いて、どう弁解した物かと頭を悩ませた。

 司先生の話が終わって教室に戻ると、一角だけ険悪なムード。ヘッドフォンで音楽を聴いていた恭介くんが、申谷さんの話を無視しているのが見えた。
「だからさー、聞いてる?」
「おわっ!? なんだよ、勝手に取るんじゃねーよ」
「何度も呼びかけてんじゃん。目の前に立ったんだから、気付いてくれてもよくない?」
 イライラとした顔の恭介くんに物怖じすることなく、放課後の誘いをする申谷さんは、ある意味凄いと思う。そう言えば私も春休みのときはよく面倒を見てもらったけれど、学校に通うようになってからは友達も増えて、メールはするものの遊びには出かけてなかったな。
 もうすぐゴールデンウィークだし、久し振りにどこかへ出かけられたらいいんだけど……。
「だから、今日はダメだって」
「えー? こないだもそう言って、遊んでくれなかったじゃん」
「だから、用事があったんだって……つか、しつけぇぞおまえ」
 なんとなく口論が心配になって目を離せないでいると、恭介くんと目が合った。『大丈夫?』って声をかけようとした矢先、申谷さんと私を見比べて舌打ちをする。
「だから、今日は由奈と約束があんの。おまえからも何か言ってやってくれよ」
「えっ?」
 そんな約束してたっけ? いつも恭介くんは、生徒会の手伝いかお家の手伝いが忙しくて、なかなか下校は一緒になれない。申谷さんもそれを知っているからか、わざわざ悠人先輩に確認を取ってから恭介くんを誘ってたりと頑張っていたのに。
(私が助けちゃっていいのかな)
 どちらかと言えば、恭介くんのほうがお世話になっているから助けてあげたい。でも、申谷さんが恭介くんを気に入っていることも知ってるから、友達として応援してあげたい気持ちもある。……だけど、付き合ったとか別れたとか、あの人が好きとか言う話は何度聞いてきただろう。
「ごめんね、申谷さん。買い物に付き合って欲しいってお願いしちゃって……」
「マジ? そんなの隆志クンにでも頼めばいーじゃん」
「俺もついでがあったから引き受けたんだ。これでわかっただろ」
 頭でわかっても納得はしてない。そんな顔で私を睨む申谷さんに、嘘をついてしまった申し訳なさでちゃんと目が合わせられない。
「……まぁいっか、次は恭介クン譲ってよね。あ、ねぇねぇたっつんー!」
 切り替えの早さに唖然としながら、私は盛大に溜め息を吐く恭介くんのそばへと向かう。
「……良かったの?」
「良かったどころか助かった。なんであんなしつこいんだ女って」
「ふふ、それじゃあ途中までは一緒に帰ろうか」
 恭介くんは、お姉さんに頼まれると断れないらしいから、きっとお姉さんたちも申谷さんみたいにパワフルなんだろうな。そう思うと恭介くんが可哀想な気もするけど、家族なら何となく愛されてるって感じがして微笑ましいかも。  そんなことを言ったら『おまえは当事者じゃないからだ』って怒られそうだけど。
「なんだよ、一緒に買い物行かないのか?」
「え、でもあれは申谷さんを――」
「おまえは俺と寄り道したくないのかって聞いてんだけど」
「行きたい!」
 それ以外の答えがあるわけない。ついさっき、一緒に出かけられたらなって思ってたんだから。恭介くんも笑って、じゃあどこに寄り道をしようかという話になる。
 学校で毎日のように会えるのに、どうして外で遊ぶ約束をするのが楽しいんだろう。

 そして、アーケード街に来た私たちは、雑貨屋で変わった形の調理器具を見たり、本屋で食べたい料理のレシピを見て見たり。ゲームセンターに行って恭介くんに景品を取って貰ったりと、放課後を楽しんだ。
 そんな帰り道――。
「……な、おまえってタクミと付き合ってんのか?」
「え、なんで? タクミくんはただの友達だよ」
「いや、聞いておきたかっただけ。俺が……由奈のこと、好きだから」
 思わず歩いていた足を止めて、言われた言葉を反復する。恭介くんが私を……好き?
 立夏くんやタクミくんのように、からかっているようには見えない。街灯に照らされた恭介くんは赤くなった顔を隠すようにそっぽを向いて頭を掻いている。
(――私は、恭介くんのこと……どう思っているのかな)
 こうやって遊べれば楽しいと思う。引っ越してきたときからお世話になって、素敵な人だっていうのは十分過ぎるくらいにわかってる。
 だけどこれが、今までのように格好良い人に対する憧れなのか、好きになろうとしているのかはわからない。
「立夏はまぁ、懐いてるだけかもしれねぇけど……タクミに絡まれてんのを助けるたび、そういうの見たくねぇって思ってさ。由奈のこと、誰にも取られたくないんだ」
 私が困っているとき、真っ先に助けてくれるのは恭介くんだ。だから今、ちゃんと好きだという自覚がなくても、付き合ってみれば好きになれるのかもしれない。
(でも、そんな気持ちで付き合ったら恭介くんに失礼じゃないのかな)
 断ってしまえば、今までの関係が壊れてしまうかもしれないし、やっぱりお世話になっている手前、蔑ろにはできない。
 そんな迷いが伝わったのだろう。恭介くんは少し悲しそうに笑った。
「お試しでもいいから、付き合ってほしい。俺を見てから決めてくれねーか」
「……うん、わかったよ。これからよろしくね」
 ここまで言われたら、恭介くんを断ることは出来なくて、申し訳なく思いながらも私たちは付き合うことにした。
 恋人になったら、何か見えるだろうか。まだ知らない恭介くんを見て、どう思うのだろう。そして、もし好きの種類が違うと気付いたら……私は、何て伝えればいいんだろう。




2010-12-28

女の子ももちろん出ます、オールキャラ。
由奈ちゃんは、ゲームよりも少し大人しめな感じかもしれませんね。

※こちらは発売前のサンプルを再アップしました。 clap

浅野 悠希